2012年にベル歯科医院の研修医となり、結婚してからも仕事優先で走り続けてきた冨山歯科医師。その生活が大きく変化したのは、妊娠がわかった2016年初夏の頃からだ。「いつも通り仕事を続けたいと思っていても、突然体調を崩して出勤できなくなったり、通勤電車を途中で降りたりすることが増えました。これでは患者さまにも職場の人たちにも多大な迷惑がかかると思い、院長と相談して勤務形態を変えていただいたのです」と状況を語る。具体的には、歯科医師をまとめるサブリーダーの役割を1年下の歯科医師にバトンタッチ。また、安定期に入るまで勤務時間を短くして負担を減らした。
当初は思うように仕事ができないことで落ち込むこともあったが、間もなく「そんなに悩む必要はないのかも」と思えるようになったという。それは、患者さまも含めて周囲の人たちが皆で冨山歯科医師を祝福し、応援してくれたからだ。「おめでとう、といった言葉はたくさんいただきましたし、ご自分の子育ての経験や、お孫さんのお話をしてくださった患者さまも多くいらっしゃいます。皆に見守られているのを感じ、力づけられました」と幸せそうだ。
実は、ベル歯科医院に就職した歯科医師が妊娠・出産を迎えるのは冨山歯科医師がはじめて。そのため医院では、すでにあった産休や育休の制度をあらためて見直した。「一般の歯科医院でこうした制度があるところはおそらく稀だと思います。私の役割は、無事出産し、復帰の準備をしっかりしたうえで仕事を再開すること。そして、子育てをしながらでも仕事を続けられるということを、身をもって示すことだと思っています」という冨山歯科医師の言葉には、自分を待っていてくれる職場への感謝の思いがこもっている。
出産という大きなライフイベントを迎えたせいもあるのか、ここ1年、仕事上の変化はさほど感じなかったという。ただし、自分の行った診療の結果を、患者さまの状態や、画像データ、数値を通して確認する機会は昨年以上に増えたと語る。「うまくいっているケースもあれば、反省することも少なからずあります。この反省点をできるだけ減らしていくのも今後のテーマです」と言う。
休業する間、150〜170人ほどの担当患者さまはすべてほかの歯科医師に任せるが、復帰したときに、また新たな視点で診察できるのが楽しみだという。「すでに4、5年診させていただいている患者さまもたくさんおられます。同じ患者さまを継続して診察しながら変化を見ていくことで、はじめてわかることもたくさんあると思うのです。そうしたことも、一つの職場に長く勤める意味だと思っています」と言う冨山歯科医師。復帰時期の目標は1年以内。その後の働き方は、子育てをしながらじっくり考えるつもりだ。
2016年12月インタビュー